超高齢社会 −認知症を知る—                      副院長 河村直樹

 我国は2007年に高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が 21%を超える超高齢社会を迎え、2012年には高齢化率が 24.1%にまで達しています。2012年の厚生労働省班研究によれば、65歳以上の高齢者の認知症は462万人、数年以内に認知症になる確率が高いMCI(軽度認知障害)の認知症予備軍が400万人で、両者を併せると800万人以上とのことです。

 認知症は長生きすればするほど発症リスクは高まり、団塊世代が後期高齢者になる2025年には認知症や認知症予備軍が1000万人を優に超え、間違いなく人類史上、類を見ない認知症大国になると予想されています。しかし、過度に恐れることはありません。まずは認知症を正しく知ることが大切です。

 認知症は、人の名前が思い出せない、物の置き場所が分からない、ガスや電気の消し忘れといった一般的に言われる“もの忘れ”だけではなく、話のつじつまが合わない、徘徊といった症状もみられます。認知症かなと心配になったら、早めにかかりつけの医師に相談したり、専門の医師の診察を受けることが大切です。認知症のタイプによっては、薬により進行を遅らせることも可能です。また、認知症でみられる異常行動や精神症状は薬物治療や環境調整、ご家族の対応の仕方などによって改善する可能性もあります。

 当クリニックでは、物忘れやそれに伴う様々な問題行動がみられる中等度〜重度の認知症患者さんには、心と身体の健康を維持するリハビリテーションである認知症デイケアを利用して頂いています。認知症デイケアとは、家庭等で生活されている認知症のある方を対象に、昼間の6時間以上を病院で過ごす通院治療システムで、医療保険適用ですので要介護度に関係なくご利用できます。当院の認知症デイケアでは認知機能の維持・改善目的に、医師や看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士などの多職種で、健康管理をはじめ心身機能の維持回復や身の回りの動作など家庭生活の維持を考慮した様々な機能訓練、脳の活性化を図るためのゲーム・創作活動により、自分らしくいつまでも笑顔で安心した生活が送れるように援助していますが、ご家族の介護負担や精神的負担の軽減も大きな目的のひとつです。

 認知症は軽度〜中等度であれば薬やリハビリテーションを利用することにより進行を遅らせることが十分可能ですが、早期であればあるほどその効果が期待できます。物忘れがひどくなったかなと思ったり、認知症かなと心配になったら、当クリニックに何でもご相談ください。    

知っておきたいてんかんのこと (2)                                      理事長 石田重信

Ⅲ.てんかんと妊娠

 てんかんを持った患者さんは妊娠できないとあきらめている方が少なくありません。しかし、抗てんかん薬治療の進歩により発作が抑制される患者さんが増え、その結果多くの患者さんが結婚生活を営み出産を望むようになりました。実際に多くの女性が抗てんかん薬を服用していても妊娠・出産が可能ですし、大部分の出産では何の問題もなく、無事に元気な赤ちゃんを産むことができます。

 しかし、てんかんを持つ女性の出産には母体及び胎児に対して、「てんかん発作」および「抗てんかん薬」に関連した確実なリスクがあるため、前もって周到な準備が必要です。「てんかん発作」は胎児のみならず母親にも有害である可能性があるため、大部分のてんかんを持つ女性は妊娠中も抗てんかん薬を服用し続ける必要があります。「抗てんかん薬」によるリスクは催奇形性と認知機能発達への負の影響という2大リスクがあります。

 てんかんを持つ女性にかかわる医師にとって妊娠・出産は無視できない問題です。医師は、発作抑制に有効かつ妊娠・出産に関連するリスクが最小となる治療に挑戦することになります。

Ⅳ. てんかん発作と妊娠

妊娠による発作頻度の変化

 抗てんかん薬のコンプライアンスを厳密に検討した調査4)では、妊娠しても70%以上の症例で発作頻度は変化せず、国際共同研究5)の結果でも全般発作の83%、部分発作の76%で発作頻度は変化していません。このように、多くの場合、妊娠中に発作が増えることはありませんが、一部の患者さんでは、服用している抗てんかん薬の血中濃度が下がりやすくなります。
血中濃度が下がっても発作が増えるとは限りませんが、血中濃度の低下が著しい場合は薬の増量を考えた方がよい場合もあります。

てんかん発作によるリスク

 1985年から1999年の英国でのすべての妊産婦死亡の調査6)では、てんかんを持つ女性の死亡率は3.8%と予想以上に高く、抗てんかん薬の突然の中止後の発作とも関連していました。妊娠初期の全身けいれんが直接奇形を誘発するという証拠はありませんが、胎児に影響を及ぼす可能性があります。全身けいれんでは発作中には呼吸していないので、母体がチアノーゼの状態になれば胎児への酸素供給が減り低酸素状態になるリスクがありますし、胎児徐脈、切迫流産、早産も心配です。また、てんかん発作重積状態により胎児の子宮内死のみならず、最悪の場合、母児ともに死に至ることもあります。このような胎児への影響を避けるため、妊娠中も治療を継続して発作を抑えていく必要があります。

知っておきたいてんかんのこと (1)                                  理事長  石田重信

Ⅰ.はじめに

 てんかんの治療は抗てんかん薬による薬物治療が基本です。その目的はてんかん発作を抑制し寛解を期待することで、副作用なしに発作が完全に抑制されることが理想です。現在の医療では、適切な薬物療法で70~80%の人で発作のコントロールが可能で多くの患者さんが普通に社会生活を営んでいます。

 しかし、患者さんは繰り返す発作、発作が止まっていてもいつまた起こるか分からないという不安のみならず、日常生活の制限によりさまざまな悩みを抱えています。妊娠を考えている女性の患者さんでは、妊娠・出産に関して、例えば妊娠中に発作が起きると赤ちゃんに影響があるのか、抗てんかん薬を飲み続けて赤ちゃんに悪影響はないのかなど、思い悩むことが多いでしょうし、このような心配を持つのは当然です。

Ⅱ.まずは押さえておきたい「てんかん」の基本知識

てんかんとは?

 てんかんとはどんな疾患でしょうか? てんかんの定義は「てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう」(WHO世界保健機関編:てんかん辞典より)とされています。分かりやすく特徴をまとめると、1)発作が反復してあらわれる、2)脳の疾患である、3)慢性の病気である、4)発作には特徴的な脳波をともなう、5)原因は様々である、ということになります。

頻度、経過、予後

 てんかんの有病率は人口の約0.7〜0.8%といわれ、わが国では100万人の患者さんがいることになります。その経過は適切な治療で70~80%の患者さんで発作抑制が可能で、治療や加齢により発作は減少し、予後としては寛解、治癒し得ます。しかし、一方で20〜30%の人は薬を飲んでも発作をコントロールできない「難治性てんかん」ということになります。

てんかんの発症年齢

 てんかんは乳幼期から高齢期まで幅広く発病しますが、3歳以下の発病が最も多く、80%は18歳以前に発病すると言われていました。しかし、近年、人口の高齢化に伴い高齢者での発病が増えてきています。

てんかんの診断

 てんかんの診断は、患者さんやご家族を含む周りの方から詳細に尋ね発作症状を明らかにするとともに、脳波検査を行って確定します。つまり、臨床発作症状と脳波検査から総合的に診断することになります。てんかんは繰り返し起こる発作が最大の特徴で、そのため1回だけの発作ではてんかんと診断できず、発作が2回起こったらてんかんと診断し治療を開始するというのが一般的です。

てんかんの分類

 「てんかん」は病名で、「てんかん発作」はてんかんの症状の一つです。てんかんとは「てんかん発作」を繰り返す脳の病気の総称で、実際てんかんというひとつの病気があるわけではなく、そのため病名であるてんかんには「てんかんの分類(てんかん症候群分類と言います)」があり、症状である「てんかん発作」にも分類があります。このように、てんかんの分類にはてんかん症候群分類1)とてんかん発作の分類2)があるために混乱し、てんかん専門医以外の医師の間で十分に理解されているとは言いがたいようです。

てんかんの薬物療法

 てんかん治療の主体は薬物療法で、日本てんかん学会より「成人てんかんにおける薬物治療ガイドライン」が示されており、てんかん発作型を基に経験的、科学的に最も有効かつ副作用の少ない抗てんかん薬がある程度決まっています。現在は第1選択薬として部分発作にはカルバマゼピン、全般発作はバルプロ酸ナトリウムが推奨されています。しかし、実際の成人てんかんの治療は①一般成人、②高齢発症てんかん、③妊娠可能年齢の女性の3つに分けて適切な薬剤を考える必要があり、特に妊娠・出産可能女性に対しては特別な配慮が必要となってきます。